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コラム 毎週木曜21時更新

2017年4月6日  隠し球

球春到来! とうとう今年もプロ野球が開幕した。
プロ野球ファンにとってはお正月ともいえるこの時期、僕も毎日試合を見るのが楽しくて仕方がない。しかも今シーズンからは「ハマスタ」に好きなだけ行けるということで、そわそわが抑えられないでいたりする。

ではここでプロ野球の開幕戦に関してザックリとしたクイズを1問。

問題
「プロ野球80年の歴史ではこれまでにたった2度しか記録されていないが、アメリカ、メジャーリーグでは松井稼頭央もマークしたものといったら何?」

ひどい問題だなー。「限定」も「絞り」も甘いなー。まあザックリなんだからザックリでいいんだけど。

これ、正解は「開幕戦先頭打者初球本塁打」ね。
つまり、その年の最初の試合の「プレイボール!」の直後に出たホームランということだ。
近いところでは2007年に現巨人監督の高橋由伸選手が達成しているので記憶にある人も多いと思う。
現楽天の松井稼頭央選手が達成したのはそれに先立つこと3年、2004年のメッツ時代だ。このときはメジャーに移籍して最初の打席でのホームランということで、「新人による」という限定をつけるとメジャー史上初の出来事だった。

では高橋選手が打つまで日本唯一のこの記録を持っていたのは誰か。
それは1962年の開幕戦で打った、阪急ブレーブスの衆樹資宏選手である。

誰なんだこれ、という感じだと思う(笑) だいたいこの名前を正しく「もろき・すけひろ」と読める人が何人いるか、という世界だろう。
この選手、あの「世界の盗塁王」福本豊さんの2代前の「背番号7」の選手で、って語り出しても仕方ないか。誰も興味ないよなー。
とにかく、この衆樹選手が2007年までは「プロ野球史上唯一の『開幕戦先頭打者初球本塁打』を打った選手」だったのである。

さて、ここからが今日の本題。

クイズ仲間が集まって飲み屋なり下宿なりでクイズ論を語ったりプレーヤーを話題にしたりするのは昔からあること。ある意味、オフクイズで最も面白い時間だったりする。
その会話の場で、決して出ない、出すべきではない、という話題があるのをみなさんはご存じだろうか。
しかも、自分のクイズのレベルが上がり、周りにいる仲間もちょっと腕に覚えのある状態の連中になってきて以降になればなるほど、話題にしなくなるものを。

それが今回のテーマ、「隠し球」である。

これ、何のことかというと、「自分が知っている限り、まだ誰もクイズ問題にしていないネタ」で、くだけた表現を使えば、「自分だけが知っている、と思っていること」、である。
当然、「テレビのクイズ番組(今だったらメジャーな草クイズの大会も含まれるかな)でまだ出題されていないもの」、という条件もつく。

「いつか出題されるだろう」という期待や予測のもと、その時が来るまで決して人に明かさず、ずっと自分だけの中に持ち続けているクイズネタ。それが「隠し球」だ。
その「時」がいつ来るかなんてわかるはずもない。ひょっとしたら一生出題されない可能性だってある。それでもなおひたすら自分の中にキープし続けるモノなのだ。

僕が考えるに、クイズの仲間と話をすることは、自分のレベルが上がってきて、そして仲間もある程度の名前や強さを持ってくると、会話のできる範囲とできない範囲が設定される。

今と違って僕が現役だったころは、たとえば『アタック25』でも普通にクイズの猛者は出場できたし、場合によっては出場がバッティングすることもあった。
テレビのクイズ番組出場は草クイズのようにそこら中でやっているものではないので一生のうちで数回のチャンスしかないものだ。さらに『ウルトラクイズ』だったら本土に到達するのは一生のうち1度あるかないかというレベルである。
ここで大事なのは、その対戦相手に今、目の前で一緒にメシを食ってる奴がならないとも限らないということなのだ。だったらそういう連中には当然「話せないこと」ができてしかるべきなのである。(「ウルトラクイズで仲間が立ちはだかる」。後から考えたら実際に僕はそうなったわけだ)

クイズ仲間は「仲間」とはいえども、場合によっては「敵」になる。しかもお互いに強くなればなるほどその可能性は上がっていくのだ。その人間に自分のプロフィールや持ちネタをつらつらと発表するなんて、僕からしたらアホのやることとしか思えない。

夢を叶える方法やダイエットを成功させる方法など、目標をもってそれを達成する方法には鉄則があると僕は思っていて、その基本の1つが、「気を切らない」ということだ。
これは、何かをやり遂げようと思ったその日から達成した日まで、ずっと同じことを同じテンションで考え、思うというものだ。

僕は自分の誇りに、クイズをやろうと思った1979年6月から引退を決めた1989年9月まで、1日たりともこの「気」を切らせたことがなかったというものがある。
その証拠の一つ、自分自身に確認することの一つとして、さっきの「敵に情報を流さない」というものがあった。
だからたとえば、クイズの得意不得意分野は?みたいな軽い質問であっても、僕は絶対に本音は明かさなかった。
誰にそう聞かれたとしても、「2番目に得意なもの」と「苦手に見えるもの」を答えていたのだ。

人間はつい自分を多く語ってしまうというクセがある。しかしもし本気で勝ちにこだわるなら、少なくともクイズでは、「気」は抜かないで常に周りは敵だと思った方がいい。そうすると絶対、安易に情報は流さなくなるはずだ。

大学時代に僕が得意中の得意にしていたクイズジャンルは「文学」だったのだが、「得意分野は」と聞かれると常に「地理」と答えていた。大学では地理学科に在籍していたので「でしょうね」と言われて違和感なく会話は終了した。

反対に当時とにかく弱かったのが「スポーツ」だった。
クイズにおいては「なぜか取れない」というジャンルが誰にでも必ずある。で、それが意外であればあるほど相手の記憶に残る。
僕みたいにスポーツをずっとやりながらクイズをやっている者はスポーツが得意に見える。しかも「野球」の分野だけは異常に強いのでなおさらそれが感じられる。しかしながら本当のところは「野球以外は何も知らない」(笑)という奴だったのだ。

この「苦手分野」の管理は重要なことなのだ。だからそれがバレてはいけないので、「苦手分野は?」と聞かれると僕は常に「家庭科です」と答えるようにしていた。
当然、クイズとしての家庭科は強かったんだけど、でもそれを聞いた人は「男性ですからねー」とか言って勝手に納得してくれる。で、この話題は終わってしまう。それでいい。
僕にとっては1年365日24時間は、すべてクイズで勝つための時間だったので、気などは抜ける暇がなかったのだ。

話を「隠し球」に戻そう。

得意不得意ジャンルと同じように、問題ネタレベルで「絶対に言わないもの」というのが「隠し球」だというのはさっき書いた。
当然のことながら僕は話題にしたことすらなかったので実際のところはわからないのだが、これ、ある程度以上のクイズプレーヤーならみんな持っていると思うんだけどどうだろう。違うのかな。

少なくとも僕は、中学2年でクイズを始めたときから持っていた。
そしてその長戸勇人初の隠し球3つ(3球?)のうちの1つが、最初に紹介した「開幕先頭打者初球本塁打」の「衆樹資宏」だったのである。(ここでつながった!(笑))

現代クイズではこの問題はそれほどの難問ではないのかも知れない。しかし僕の現役時代では難し過ぎたのか結局出題されることはなく、僕がこの問題に出会うには1990年の冬まで待たねばならなかった。
その場所は金沢だった。(ちゃんと場所も状況もはっきり記憶している) 当然完璧なポイントで押し、正解を出したが、その瞬間、得も言われぬ感覚に包まれた。「抜けた感」、つまりカタルシスなんだろうけど並みのそれではなかった。正解するまでに11年かかったわけだからね。

もちろん「隠し球」が失敗した例もある。
持っていたネタがようやく出題されたにもかかわらず、たまたま自分がそのときにボタンに就いていなかったときなどだ。
クイズ倶楽部という社会人サークルを始めた後は、このことが実によくあった。現役はとっくに退いていたとはいえ、その悔しさといったらとんでもないものがあった。

ちなみにこの「隠し球」は難問ネタだけに限らない。問題が難化していった90年代後半以降はむしろそういった類のものではなく、発想やアイデアなどで「自分だけが先に到達した」と思えるものに多くがシフトして行った。(あくまでも「思ってる」だけね。単に自分の周りで出題されていないだけ、だ)

そういう意味での「隠し球」で会心の押しができたのは、

問題
「(略)~、このヘイエルダールらが乗った「コンチキ号」。名前を逆から読んだら何?」

に、「うごきチンコ!」と答えたものなどがある。(くだらねー)

いかがだっただろうか。クイズの世界に確実に存在する可能性が高いにもかかわらず、誰も話題にしないし、話題になった瞬間に価値がなくなってしまい存在意義がなくなる、という「隠し球」の話。

スポーツ選手が引退をすると、かつてのライバルたちとの対談では決まって、実はあのときは・・・といった話をする。「今だから話せる」という類のものだ。
しかしクイズのプレーヤーには基本的に引退がないので、いつになっても本当の意味で「今だから」という話ができない。
話をしたとしても結局は表面的なものに終始するので、「隠し球」は永久に隠されたままとなってしまうのである。持っているとすれば、の話だけど。

ちなみに現在僕が保持している「隠し球」はというと・・・、と書きたいところではあるが、かくいう僕であっても仲間うちだけのクイズは細々と続けており、しかもその狭いコミュニティであってもいまだに「勝ちたい」という気持ちは持っていたりする(笑)

その「隠し球」のネタが「満を持して」出題されるときに誰よりも早く押して正解してキメたい、ただそれだけの欲望のために今回のコラムはここまでで終わっておくことにしよう(笑)

ではまた来週の木曜日。




コメント(6)

“隠し球” への6件のフィードバック

  1. ピコ太郎 より:

    毎週、コラム楽しみに読ませていただいております。有難うございます。

    衆樹選手がその本塁打を打った相手投手って、あの伝説の助っ人「赤鬼」スタンカだったというのが、またそのエピソードを彩る背景として良い感じですよね。(←バラすな~、と怒られそうですが)

    それにしても今回の話題は、これまでこれほど色々な角度からのノウハウを詳らかにしてきた中、更にディープな部分は「秘伝」のまままだまだ数多存在することが推し量れて、非常に興味深いです。そうか~、クイズをやっておられる方は、いち早く発見したトピックスは自らが「元祖」として発信したくなるものなのかな、などと夢想していた私は甘々なのですね。

    そもそもその「隠し球」も、今後の試合で登場する可能性が高い「方向性」や「深さ」といったベクトルがキチンと感覚的に読み取れていなければ無駄に終わることも多そうなので、その辺りの見切りの判断基準も興味津々です。

    未だに(長戸さんにとって)些細な舞台でしかない場であっても、トコトン勝ちにこだわるスタンスを持ち続けていらっしゃることに「カワイイ」と感じてしまうのは私だけでしょうかw

    いつか、そんな長戸さんが「長年の間秘蔵していた隠し球を抜いて、カタルシスに浸る」シーンを拝見したいものです。

    • Nagato より:

      メッセージありがとう、ピコー。
      昔、『創造力』の3冊目を打診されたとき、その「マル秘」の部分を前面に出したものにしましょうと言われて速攻で断ったという思い出があります(笑)その次に打診されたのがクイズの哲学的な部分を披露するというもので、これも却下させていただきました。で、無難な「応用篇」になりました(笑)

      クイズの舞台に些細も何もないよ。問題と対戦相手がいたら制するだけです。状況や相手でメンタルを変えるのは「ギアを上げる」という感覚以外はすべて「敗者の習慣」と思っています。たぶん綱渡りをする人って、地上すれすれの練習用の綱の上と本番の綱の上とでメンタルは同じなんじゃないだろうなと思うのよ。屋外だったら風の計算はあるだろうけどね。だから上に行って高さにビビることはないはず。クイズも一緒。「メンタルを抜く」は「手を抜く」と同じで、手を抜く奴は「手を抜く技術を会得する」方向に向かっているわけだから、絶対にやってはいけない場所で抜けてしまうんだよね。ドイツ語を習ったことがない人が、「思わず口からドイツ語が出た」なんてことにはならないわけでしょ。会得しなくていいものは最初から会得しなければいいわけだ。
      ただ、クイズで勝つのは自分が楽しむため。だからこそ、クイズの場では周りのみんなを無理してでも楽しませないといけないのよ。僕がプライベートでクイズを一緒にする連中はその感覚が理解できて自分も実践できる人に限ってる。僕の場合はそれでバランスが取れてるかな。

  2. 今週はちゃんと気合入れて書いとるのう。やればできるじゃないか。その調子、その調子。毎週手抜かんとちゃんと書けよ。
    「隠し玉」の「うごきチンコ!」はおまえらしくて実にいいねえ。
    大声クイズあったら、今度から「うごきチンコ!」にすりゃあ、いいんじゃないの。
    今度から野球場も近くなるんだって。球場には酔っ払いが付き物やし、酔っ払いのヤジも楽しみやろ。期待に応えてヤジったるわ。へへへ。

    • Nagato より:

      なんだまたオマエか。ヒマなんか(笑)
      いやー、「うごきチンコ」は嬉しかったよ(笑)嬉しいから何回でも書いてやろう。「うごきチンコ」。
      で何か?またヤジるのか。まあ面倒にならん洒落の範囲でなー。

  3. ローズマリー より:

    長戸さん、本当に戦士だったんですね。
    クイズプレイヤーの方、本当にすごいですね。
    気が途切れないのは素晴らしいです、私は途切れまくりです。よって、ダイエットがいつまでも終わらない(笑)
    私自身の「隠し球」は何かなと考えてしまい(クイズとは無関係な事ですが)でも「隠し球」だから隠しておきます(笑)
    気の合う、同じ価値観の仲間がいるのは幸せですね。長戸さんの人柄があるかもしれませんね。

    • Nagato より:

      メッセージありがとうございます。
      戦士というか、あの頃は本当にクイズが好きだったんだなって思いますね。あ、クイズじゃないか、何か「達成感」みたいなものを欲していたんだなと思います。名誉欲も権力欲も何もなかったので純粋に向き合っていたんですね。もう一回あんな気持ちになれって言われたとしても無理って即答すると思います。今も何の欲もないですが、頭も体もついて行けません(笑)
      昔から仲間に恵まれてるのは幸せなことです。でもこればっかりは運もあるからねー。その人の人間性が素敵で、かつ僕に振り回されても平気という人々にたまたま知り合えただけということなので、これはもう奇跡以外の何ものでもないです。ありがたいことです。

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